ということで奮発してRyzen Threadripper 3970Xで32コア空冷PCを自作しました。
以下、購入した各部品の紹介、レビュー、トラブルの発生と解決、簡単なベンチと消費電力の測定結果です。
以下、購入した各部品の紹介、レビュー、トラブルの発生と解決、簡単なベンチと消費電力の測定結果です。
発売日当日(2019/11/30)の秋葉原。3950Xは早朝の段階で瞬殺だったようですが、3960X/3970Xは高額なうえにマザーボードも新規購入必須なせいか秋葉原店頭ではなんとか買えました。入荷数は少ないので店舗によっては売り切れてたかもしれません。
無事に購入できたRyzen Threadripper 3970X。32コア/64スレッド、3.7GHz~4.5GHz、TDP280Wのワークステーション系CPUです。購入時の価格は税込み約26万。32コアの割には安いですが高くて辛いです。
3970Xの付属品。マニュアル兼保証書、エンブレムシール、水冷用のマウンタ、sTR4X用のトルクスドライバー。ドライバーはちゃんとトルクレンチになっていて気が利いてます。
マザーボード:MSI TRX40 PRO WIFI
購入したマザーはMSIのTRX40 PRO WIFI、選定理由は以下。
・ATXフォームファクタ
・空冷クーラーと干渉しなさそうなVRM回りのヒートシンク
・PCI Express x16が空冷クーラーと干渉しなさそうな配置
・安い(Gigabyteのマザーのほうが米国の定価は安いですが、謎の税金で国内ではMSIのが安かったです)
定格で使用するのでVRMのフェーズ数とかオーバークロック向けの機能は重視していません。安いとはいえ6万近いマザーなので、少なくともAMDの64コア3990Xまで対応のリファレンスデザインから逸脱した仕様にはなっていないはず。
裏面。最初からバックプレートのついてるAMDのソケットはいいですね。
主なオンボードデバイスは以下。
・Intel Wi-Fi 6 AX200 (Wifi & Bluetooth)
・Intel I211AT x2(Gigabit LAN)
・ASM3242(USB 3.2 Gen2x2)
・ALC1220+ALC4050H (Audio)
CPUの取り付け
まずはカバーを外します。ソケット部分のカバーとCPU装着部分のダミーの二つあり。
ピン数4094本は凄いです。埃(特に糸ごみ)が付いたら嫌なので手早く作業。
CPUを差し込んでから倒すだけで簡単に装着できて便利で安全。
MSI TRX40 PRO WIFIのVRM周りの画像
水冷ならそれほど心配ないですが、巨大な空冷クーラーを搭載するときに気になるのはTDP280Wの大電流を供給するVRMのヒートシンクとの物理的な干渉です。VRM周りの写真を載せておきます。水冷ヘッド使用が前提っぽいASUSとかAsrockのマザーよりもVRM周りはすっきりしているため、干渉の心配は少ないと思います。
ヒートシンクフィン+ヒートパイプのパッシブ冷却ですが、アルミの化粧板がエアフローの邪魔です。妙な飾りとかLEDとかは最小限にしてほしいところ。
ヒートパイプはバックパネルのIOパネル側に伸びていますが、こちらはフィンではなくアルミの塊に近いです。
CMOSのバックアップ電池のケーブルらしきものがヒートシンク下に入っていますが、電池交換の時はどうするのでしょうか。特にマニュアルには交換方法の記載もないので、一次電池のCR2032じゃなくて充電できるML2032とかなのかも。
CPUクーラー:Thermalright Silver Arrow TR4
TDP280Wの爆熱仕様なので水冷を検討する人も多いと思いますが、水冷は以下の理由で辞めて空冷にしています。
・寿命が短い(4,5年は稼働させます)
・メンテが必要(埃取るだけにしたい)
・漏水時に電源系に掛かる恐れ(クーラントが絶縁でも埃や不純物が混じったり金属イオンが溶けると導電する可能性があります。)
特に漏水リスクが一番怖く、800W以上の電源の上に配管が通る設計にするのは恐ろしいです。Seasonic製のまともな保護回路が入っている電源を使用しても、液体を被って一次側で短絡したらどうしようもありません。エアコンの基板のように防湿コートでもされていれば別ですが…。
sTRX4ソケットの物理的なマウントはEPYCのSP3や第二世代のThreadripperのTR4と同じ(部品の刻印もSAM SP3)なので今までのクーラーが使用できますが、3970Xは2990WXのTDP250Wを超えるTDP280Wなので、冷却能力に余裕があるものを選ぶ必要があります。
というわけでCPUクーラーはTDP320Wまで対応の大型空冷クーラーThermalright Silver Arrow TR4を選択。競合のNoctua NH-U14S TR4-SP3よりも冷えそうです。
中心に配置されるファンは140mm 2500rpm TY-143が付属。前後にファンを増設できるので、140mm 1800rpm TY-143Bを二つ増設して3連ファンにしています。
これならその辺の280mm以下の一体型簡易水冷システムより冷却できるはず。
取り付けは、まずCPUのマウンタに両オスの段付きスペーサーを付け、スペーサーの上にプレートを付けてローレットナットで固定、プレートにクーラー本体をねじ止めする構造です。
スペーサーは段付きの長いほうがクーラー側、短いほうがマウント側です。(ねじが異なるので誤装着はできない)
早速取り付け開始するも・・・
Silver Arrow TR4のプレートがスペーサーの上に装着できない!
プレートの穴にスペーサーの段の部分が入る構造なのですが、プレート側の穴位置がずれていて、スペーサーの段に干渉して装着できません。
Thermalright、公差管理どころかまともに検品してるんでしょうか?
右に合わせると左が入らない |
楽しい自作PCの時間(金属加工)
プレート二枚とも同じ状況(入れ替えてもダメ)のため、返品してもまともな代品が来るとは思えないです。
せっかく発売日にCPU買ったのに組めないのも嫌なので、自己リスクでプレート側の穴を削って広げて装着しました。若干長穴になりますが、ここは水平に取り付けられれば十分なので平気です。
※当たり前ですが保証外の行為です。加工時の金属粉もちゃんと除去しましょう。
正しく水平に取り付けられました。(スペーサーの段の部分がプレートに収まっています)
二枚とも問題なし。
ローレットナットをちゃんと固定する前にクーラー単体を仮乗せしますが、ヒートスプレッダとの接触面積が大きいせいか、なんとなくヒートシンク側の平面が出ていない感じがします。(ピタッと吸い付く感じがせず、長編方向に微妙に動く)この辺も工作精度がいまいちです。
まぁ何はともあれ装着できたし実用上は問題ないと思われる範囲なので、とりあえずグリスを多少はみ出す感じで多めにつけることにしました。
CPUグリス:Thermal Grizzly Kryonaut
いつもはアイネックスの安いシルバーグリス(Arctic Silver 5、AS-05)ですが、TDP280Wなのでクマグリスの一番高いやつを購入。ヒートスプレッダがでかいので多めに盛ると1gじゃ足りないかもしれません。(2g買いました)
ケース:Fractal Design Define R5 Black Pearl
ケースも新調。Fractal Design Define R5 Black Pearlにしました。
後継機種のR6も出ていますが、生産終了しつつあるR5を以下の理由で選定。
・サイドパネルがメタル ※R6も同じ
・電源のシュラウドがない
・HDDが4点固定できる
・5インチベイがある ※R6も同じ
・吸気(フロント/ボトム)にフィルターが付けられる ※R6も同じ
・吸気が14㎝ファンx3にできる
・5インチベイ含め、ほとんどの部品が外せる柔軟性
・奥行きが短い(この為にATXマザーにしてます)
・シンプルなデザイン ※R6も同じ
5インチベイにはリムーバブルケースOwltech OWL-IE5CU3Bを搭載。3.5/2.5インチ一台ずつ搭載&USB3.0ポート付き。
フロントパネルサイドの吸気口から、5インチベイに抜ける隙間があるので隙間テープで塞ぎます。
ファンの構成は CORSAIR CO-9050045-WW [ML140 Pro] 140mm 2000rpmを5台。
風量と静圧に余裕持たせてますが、全開にすると離陸しそうなぐらい五月蠅いです。これなら真夏も乗り越えられそう。
埃防止に吸気x3(フロントx2、ボトムx1)、排気x2(リアx1、トップx1、電源、GPU)の正圧構成にしています。
トップのModuVentは一枚だけ外してファン設置。余計な隙間があるのでショートサーキットができないようにポリイミドテープで塞ぎます。ポリイミドテープ、耐熱性は非常に良いけど黄色いのが微妙。(見えないところなので良いけど)
底面にも吸気口が大きく開いていますが、前方にファン一つ設置し、ほかの部分は塞ぎます。電源はケース内部から吸気するように設置。
メモリ:Crucial DDR4-3200 16GB x4 CT2K16G4DFD832A(計64GB)
クアッドチャネルな3970Xの定格最大対応メモリは、4枚刺しだとシングルランクでもデュアルランクでもDDR4-3200(CL22,PC4-25600)です。8枚刺しだと2666MHzまで下がるので帯域重視ならチャネル当たり一枚までの4枚刺しが良いです。非OCメモリの1.2V駆動ネイティブ3200MHzなJEDEC準拠のメモリを選択。メモリベンダーMicron(Crucial)純正品。
初回起動時に妙に時間が掛かってて遅いと思ったら勝手に2666MHzまで下がってました。
とりあえずBIOSを更新(7C60v21、AMD AGESA Code 1.0.0.2)、デフォルト設定ロード後にOC設定でメモリ周波数のみDDR4-3200を手動設定してみましたが何の問題もなく起動しました。
Memtest86(Passmark版)もRowhammerテスト有効で三周以上Pass。予算をケチって4枚セットではなく、安い2枚セットを2組買いましたが相性もなく動いてよかったです。
TRX40 PRO WIFIとSilver Arrow TR4は干渉なし
VRM周りにアクティブ冷却ファンや巨大なヒートシンクはないので、CPUクーラーとの間はかなり余裕があります。干渉の心配は皆無です。
OC系マザーと比べると質素な冷却系ですが、水冷ではなく空冷なのでCPU周辺にもエアフローがあり、特にVRMの発熱も問題ないでしょう。
CPUクーラーとケース上部にも余裕あり。上部のファンは25mm厚です。
CPUクーラーと一番上のx16スロットとの干渉もありません。
グラボはEVGA GeForce GTX 1080 Founders Edition(8GB)。
CPUクーラーとGPUの重量がマザボに掛からないようにする
マザボ上の一番の重量物、CPUクーラー(Silver Arrow TR4+増設ファンx2)で約1.4㎏、GPU(GTX1080FE)が約1.1kgあります。
そのままPCを立てて使うとこの重量でマザボにストレスが加わり続けるので、GPU用のサポートステイ、長尾製作所 N-VGASTAY-LONG [VGAサポートステイL マグネット式]を二本使用しています。(写真は上部参照)
値段は若干高めながら作りも表面処理もしっかりしています。
長さでLとSがありますが、長いほうは延長プレートを使用しなければ短いものと全く同じです。値段もそれほど差はないので長いほうを買っておけば柔軟に対応できます。
M.2 SSDの取り付け
CPUからのPCIex直接続のM2スロットが二つ。付属の拡張カード(M.2 XPANDER-Z Gen4)を使用するとM.2 SSDを最大4枚搭載できます。
ヒートシンク付き(チップセットファンの保護シール剥がしましょう) |
PCI Express 4.0ではない(3.0)ものの、比較的安価ながら高速で長寿命なので選択。
・M.2 Type 2280フォームファクタ
・Phison社製PS5012-E12コントローラ
・PCI Express3.0×4接続(4.0ではない)
・Read 3480MB/s、Write 3000MB/sで割と高速
・3D TLC NAND採用で1,700TBWの長寿命
GPUの下のヒートシンクを外します。ヒートシンクの反対側は特に冷却の仕組みはなさそう。
ヒートシンクの裏面には熱伝導シート付。
保護シートは剥がします |
MP510のベンチマークは別記事にしました。
ファンの分岐ケーブル
ファンの電源はペリフェラルコネクタから取りつつPWMと回転数だけマザーに接続する分岐ケーブル、Owltech OWL-CBPU053(ファンPWM信号 4分岐ケーブル)を購入しました。3本買って以下の3系統で制御しています。
・吸気 x3(ML140 Pro x3)
・CPU x3(TY-143 x1 + TY-143B x2)
・排気 x2(ML140 Pro x2)
一応マザーにはCPU_FAN,PUMP_FAN,SYS_FAN1/2/3/4の6系統のファンコネクタはありますが、こうするとファンのPWM制御設定を3つ設定変更するだけで調整できて楽です。
(個別に設定する場合、BIOS更新したりデフォルト設定ロードした際に再設定するとき大変です)
冷却性能重視で14cmファンを8基搭載しているので単純なタコ足ケーブルで取ると給電能力を超えそうですが、このケーブルだと給電能力の心配がありません。
32コア空冷ワークステーションの完成!
CPUクーラーのトラブル対応に時間が掛かりましたが、その他は何の問題もなく完成。
完全に裏配線にはしていませんが、一応エアフローは考慮しています。
サイドパネルはEMI対策のためガラスパネルではなくメタル版で内部は見えないので見た目は気にしてません。
裏面は割と適当。フロントパネルのオーディオ端子は使用しないので接続してません。
使用した全PCパーツ一覧
パーツの一覧です。これから第三世代Threadripperで組もうとしている方の参考用にどうぞ。
一部パーツ(GPU、電源、HDD、リムバーブルベイ、SATAケーブル)以外は新規購入です。
ベンチマークや消費電力など
・構成は上記。
・BIOS設定はAutoの定格。メモリクロックのみDDR-3200(定格)を手動で指定。
・AMDのチップセットドライバを入れ、電源プランはAMD Ryzen Balanced。
・消費電力はUPS CyberPower Backup CR CPJ1200での簡易測定です。
アイドル時
・約100W(79-108W)
・約36℃(室温+14℃)
Cinebench R20 Multi
・17092pt
・約360W
・約3886MHz
Cinebench R20 Single
・519pt
・約136W
・約4485MHz
定格でもかなり高速です。シングルではターボ定格の4.5GHzまでちゃんと出ます。
スコアはPC Watchのベンチ結果とほぼ同じ値が出ていますが、消費電力はこちらのほうが低いです。
メモリが非OC品で電圧が低い(1.2V vs 1.35V)のと、電源の効率(PLATINUM vs GOLD)が効いているのでしょうか。
OCCT 64スレッド 1時間
・約360W
・約4036MHz
・約78℃(室温+55℃)
ベース3.7GHzですが、32コアフルロードでOCCTを長時間回しても4GHz以上をキープできていて凄いです。これなら空冷でも十分運用可能です。
SSDのMP510のベンチマークは別記事にしました。
最後に
第三世代Threadripper、値段は高いですが相応に性能も高いです。初代Ryzenの登場からここ数年で最新プロセスのダイサイズ限界近くまで急激にコア数が増えたので、当分はコア数もクロックも伸びが緩やかになり、3970Xであと5年はメインで十分に戦える性能となると思います。
TDP280Wな点は懸念点でしたが空冷での運用も十分可能で安心しました。
これでCPUが得意な処理をぶん回して遊べます。